“すべては実験” 起業の極意と面白さ

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CASHを公開した日も一緒にいた
――そもそもお2人はどういうお知り合いなんですか。

光本:最初は共通の知人の紹介で知り合ったんですけど、慎ちゃん(大竹慎太郎氏のこと)とは奇妙な縁があって、CASHを公開した日(*1)も深夜まで一緒に飲んでいたんですよ。
(*1)CASHを公開した日:即時買取アプリ「CASH」の公開日。公開から16時間で3億6000万円の出金があり、サービスの一時停止を余儀なくされ、大きな話題になった。

大竹:そうだった。あの日、みっちゃん(光本勇介氏のこと)のツイッターの通知が大変なことになっていたよね。

光本:さすがにもうまずい、ってなってオフィスに帰って、1時半ぐらいにサービスを一時停止したんです。

大竹:あれ大変だったよね……。

「起業の極意」は2つだけ
大竹:今日はそんな古くからの友人であるみっちゃんに、「仕事の要諦」について聞きに来ました!

光本:?

大竹:ん?

光本:仕事の要諦!! それ、どういうこと!?

大竹:……簡単に言えば、CASHをDMMに70億円で売却するまでの過程でみっちゃんが学んだ、企業の経営や仕事において最も大切なこと、という話かな……。

光本:なるほどね。

大竹:その話でいい?

光本:もちろん! その話でいえば間違いなく言えるのは、「市場選択」と「タイミング」の2つだと言い切れるかな。

大竹:市場選択とタイミング?

光本:STORES.jpやCASHの話でいえば、その頃からはすでに「その年のテーマ」を自分の中で考えるってことをやってたんだけど……。

大竹:その年のテーマ?

光本:STORES.jpの時は、感覚値として「EC(電子商取引)の概念が作り直される年」と思っていて。前提としてSTORES.jpをオープンした2012年は、その年の6月にYahoo! JAPANの経営陣が若返った年で。その中で「eコマース革命がくる」と言い出していた。

大竹:あれからまだ6年しか経ってないんだね。

光本:その中で翌13年の10月にYahoo!ショッピングの無料化を発表といった世相があった。

大竹:なるほど。そういう「タイミング」の流れはあったとしても、なぜ実際にそこでSTORES.jpのオープンに向けて動いたの?

光本:それで、そもそもみんながみんな物をどこかで買うっていうのは間違いないわけで、ECの市場はもっと大きくなっていくというのは目に見えていた。

大竹:そこで「タイミング」と同時に「市場選択」も整った?

光本:そう。そこから俯瞰して、「なにかECでできないかな?」という目で事業を探していったという流れなんだよね。

大竹:その時に何かが起きた?

光本:その頃、結構同じタイミングで周りの親しい人たちから「ウェブ上で物を売りたいからオンラインストアを作るのを手伝ってほしい」という相談を複数受けていた。親戚のおじさんとかから。

大竹:なるほどなー。

光本:それで手伝ってあげたいんだけど、その頃会社も5人とかでやってたから手一杯で助けようにも助けられなかった。そこで、「これ使えばいいよ」って言って、サッと送れる簡単にオンラインストア作れるサイトはないかなって探したんだけど、当時はそんなサイトは存在していなかった。

大竹:なるほど。

光本:そこではたと気がついたんだよね。普通の人にこんなにオンラインサイトを作りたいっていう需要があるんなら、簡単にオンラインショップ作れるサイトを作って、困ってる人に「これ使いなよ」って送れるURLを生み出せばいいんだって。それがSTORES.jpのはじまり。

新規事業は今の仕事の中から見つけなさい
大竹:では、その後に出したCASHはどういう経緯だったの?

光本:まず去年は前提として「お金の年になる」って思ってたんだよね。

大竹:それがCASHの時の「タイミング」?

光本:そう。それでそもそも2017年の2月にBANKという会社を立ち上げて、お金に関する事業をやろうと思っていた。金融系の市場があまりにも大きいことは歴然としているから「市場選択」もバッチリで。中でも少額の資金ニーズがあるっていうのは強く思っていた。

大竹:それはなんで?

光本:これは感覚値でしかないんだけど、メルカリの成長とかを見ていたからじゃないかなと思う。メルカリって国内でも8000万ダウンロード達成してるんだけど、日本の成人年齢人口は1億人ぐらいと思うけど、その8割がダウンロードしてるってもう圧倒的で。

大竹:確かに。

光本:STORES.jpって普通にやってると、売上の振込って、月末締めの翌月末払いなんだよね。要はお金が入るまでに1ヶ月待たなきゃいけない。そこでスピードキャッシュっていうボタンを設置した。このボタンを押すと、その翌日に売上が振り込まれるようになる。

大竹:ほお。

光本:その代わり、早期払い手数料として3.5%が引かれる仕組み。

大竹:それを利用する人が……、膨大な数に上った?

光本:そう! 使ってもらえるかどうかわからなかったけど、出したらものすごく使われた。みんなボタンを押しまくってた。それを見た時に、あー、世の中の人は少額の現金が必要なんだなという確信を得た。

大竹:なるほどなー。

光本:そこで思いついたのが、みんなお金はないけど、物は持ってるよなと。だったら、その物の写真を単純にスマホで撮影してうちに送ってくれさえすれば、買取金額をその瞬間に振り込みますっていうサービスにたどり着いたのが、CASHとして結実したっていう形。

大竹:だからみっちゃんの話を聞いてて面白いのは、僕が『起業3年目までの教科書』の中で書いてる、事業やサービスを生み出す方法とまったく一緒なんだよね。

光本:「いいものを生み出す方法」とか、「起業時のテストマーケティングの方法」の話とか?

大竹:そうそう。CASHの生み出し方にしても、本の中で推奨している「新しい事業のタネを探すには、現在自分がやっている仕事の中から探しなさい」っていう話そのものだし。

光本:確かに。その話で言えば、本に書かれてた「起業時の事業選択は、マーケットが十分に大きく、まずは少額の資金ではじめられるものからはじめなさい」ってすすめてる箇所とかも、すごく自分の考え方と似てるなと思ったよ。

大竹:なるほど。

光本:だから慎ちゃんって元々、大きな組織をあれだけ短期間でまとめ上げていてすごいなって思ってたけど(大竹氏の会社は起業から3年で180人規模にまで急成長した)、この本を読むと、組織づくりにしても事業選択の話にしても、さすがにこれだけ研究して、改善してって繰り返してたら、そりゃああれだけの規模の会社に育てられるのも納得って感じだった。

大竹:ありがとうございます(笑)

光本:実際僕もこれから組織を大きくしていくフェーズに入っていくから、参考にして使い倒してやろうと思いました(笑)

大竹:ぜひ使い倒してください!(笑)

光本:それで結局、みんなが何のためにメルカリを使ってるかというと、お金がほしいんだよね。月に3,000円とか4,000円とかの資金を得るために、綺麗な写真を撮って、丁寧に説明文書いてってやって。そういったステップに時間をかけても少額の資金を得たいという莫大なニーズがあることはわかっていた。

大竹:じゃあメルカリの成功を見て、CASHを企画した?

光本:それがそうじゃなくて、最初に少額の資金へのニーズを実感したのは、STORES.jpの運営をやってる中でなんだよね。

70億円で会社を売った社長のノート術
大竹:結局、市場とタイミングを重視してるとはいえ、みっちゃんはどうやってあれだけの企画を生み出しているの?

光本:その話で言えば、僕のノート術は、多くの人に使ってもらえる方法かなと思う。

大竹:ノート術。どうノートを使ってるの?

光本:まずは普通に、事業やサービスについて思いついたことは、思いついた瞬間にノートにメモるようにしている。

大竹:それはどういうことを思いついたときなの?

光本:なんだろうなー、たとえば「この市場は大きそうだ」っていうのを思ったら、その市場をメモしてるときもあるし、普通に生活する中で、「こういうのがあったらいいよな」「これは不便だな」っていう気付きをメモするときもある。あとは、海外のサービスでイケてるものがあれば、そういうのもとりあえずはあまりハードルを設けずに思いついたら即座に書き込むっていうことを続けている。

大竹:なるほど、海外のサービスの研究もしてるわけね。

光本:それで、それらの中で、それを自分が事業化するならどうするか? という視点で眺めて、実際の簡単な事業プランに落とし込む形で、事業のタネをメモってたりする。それでこれが結構キモなんだけど、それらの事業プランを「1軍」「2軍」「3軍」に仕分けして、それも書いておく。

大竹:へー!

光本:そして、1ヶ月に1回とか、3ヶ月に1回とかの頻度でそのノートを見返して、「1軍」「2軍」「3軍」の入れ替えを行っていく。

大竹:なるほど。

光本:で結局、事業ってタイミングが重要なわけで、そのあらかじめメモっていたネタの中から、「いまがそのタイミングだ!」っていう時が来たら、実際にサービスの開発に入っていくっていう感じ。だからCASHにしても、その時点で思いついたサービスではなくて、元々温めていたネタのひとつで、「今年はお金の年だ」ってなった時に、「じゃあこれをやる!」って引き出していけるっていうイメージだよね。

大竹:なるほどなー。1軍、2軍、3軍の選定っていうのはどういう視点で行ってるの?

光本:結局インターネットという区切りじゃなくても、色々な業界があるよね。医療業界、不動産業界、教育業界、金融業界って、それはなんでもいんだけど。そこでトップを走っているIT企業っていうものがあるわけですよ。でも、現時点でトップを走っているっていうことは、もう立ち上げから5年とか10年が経ってしまってるわけね。

大竹:うん。

光本:それで、そういうサービスとか事業って結局、5年前とか10年前の事情や状況をベースに作られてるものだから、「今」というこのタイミングからしたら100%最適じゃないかもしれない。

大竹:確かに。

光本:だとしたら、もう1回それを「現在」という形に最適化して作り直すことができるかもしれないし、ずっと解決できない課題を抱えてたとして、「今」ならその課題を一気に解決できるかもしれない。そういう視点で、「市場選択」と「タイミング」を考慮して、1軍、2軍、3軍の入れ替えを行ってるって感じかな。

大竹:なるほどなー。そういうノート術を駆使しながら……、市場とタイミングが揃うのを虎視眈々と待つというのが、70億円で会社を売却したみっちゃんの仕事の極意だ。これはぜひ読者の方にも実践していただければと思います。

全起業家必読の本とは?
大竹:じゃあ最後に、これから起業・独立しようって思ってる人が読んでおいてほうがいい本ってある?

光本:それは間違いなく『ドラえもん』!

大竹:え?

光本:ちょっと待って……(と言ってスマホをゴソゴソいじりだし……、あるスクリーンショットを見せる)

大竹:これなに?

光本:これはドラえもんの道具の1つである品物を入れると即座にそれを買い取ってくれる「自動買い取り機」……。CASHと機能としてはすごく似ている。他にも「どこでもドア」はgoogleストリートビューなわけですよ。

大竹:なるほどね。

光本:こういうものがあるって最近知ったから、実際にはドラえもんの道具を参考にしてサービスを作ったことはないんだけど、ドラえもんを読んで、よさそうなものをアプリ化していったら、死ぬほどアプリを量産できるよね。

大竹:藤子・F・不二雄さんが神!

光本:(笑) あとはやっぱり、慎ちゃんの本だよね。

大竹:はいはいはい。

光本:(スマホでアマゾンの本のレビューページを見ながら)おお、「ここ数年で読んだ本の中で一番勉強になりました」って書いてあるよ!

 

引用元

gendai.ismedia.jp

 

対談ってちゃんと読むの大変ですよね