男性特有の薄毛、「AGA(男性型脱毛症)」は、早い人では10代後半から始まるとされる。長年薄毛に悩んでいる男性は多いが、新しい内服薬やレーザーを使った光治療など、治療の選択肢が広がっている。
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人間は太古の昔から脱毛症に悩まされてきた。人間も動物の一種であるため、動物の名残で秋冬には毛髪も脱毛しやすく、脱毛を理由に医療機関を受診する人が増えるという。だが、AGA(男性型脱毛症)には季節は関係ない。20~69歳男性の約3人に1人が発症するとされている。
大阪大学医学部皮膚・毛髪再生医学寄附講座特任教授で、心斎橋いぬい皮フ科の乾重樹医師は、こう話す。
「AGAの診断率が上がり、近年の薄毛への意識の高まりで患者数が増えているようにも感じますが、成人男性の約3分の1という総数はずっと変わっていないと思います」
AGAによる薄毛が起こる原因は、遺伝的影響のほか、男性ホルモンの一種である「ジヒドロテストステロン(DHT)」による影響であることなどがわかっている。女性にも男性ホルモンがあるため、女性のAGA患者も少数ながらいるが、大半は男性だ。
AGAの典型例は前頭部の生え際や、頭頂部の毛髪が薄くなる。毛髪は成長期→退行期→休止期というヘアサイクルを経て抜けたり生えたりする。薄毛の原因はこのヘアサイクルの乱れにある。通常、地肌の中にある毛包という部分から毛が成長する成長期は平均2~6年だ。しかし、AGAでは数カ月~1年程度と徐々に成長期が短くなっていく。次第に毛包が小さくなり、その毛包から生える毛は細く短くなっていく(図)。それがいわゆる薄毛の状態だ。
こうした状態は早ければ、10代後半から始まる。60代以降になると、次第に全体的に頭髪が薄くなる加齢性の薄毛と混合していく。
■新しい治療薬がアジア圏で発売
AGAが進行すると、徐々に細く短い抜け毛が増える。ただし、正常な人でも平均1日80~100本の毛が抜ける。それが120本に増えたところで自覚はしづらい。乾医師はこう話す。
「写真を見て気づく、または周囲に言われる、雨粒が頭皮に当たって気づく、などで初めて薄毛を意識する人が多いかもしれません」
治療法は、外用薬や内服薬のほか、「自毛植毛」や近年登場した「光治療」など選択肢が広がっている。いずれも、保険外の自費診療だ。
乾医師によると、日本人のAGA治療の主流は内服薬と外用薬だという。
代表的な内服薬は「フィナステリド(商品名:フィナステリド、プロペシア)」だ。世界中でもっとも使われている内服薬で、2017年に日本皮膚科学会が新たに発行した「男性型および女性型脱毛症診療ガイドライン2017年版」の推奨度もランクA(おこなうよう強く勧める)。
また、16年に登場した新しい内服薬「デュタステリド(商品名:ザガーロ)」もこの新ガイドラインにAGA内服薬として新たに加わり、同じく推奨度Aだ。
デュタステリドは日本より韓国で先に発売され、現在はアジア圏を中心に台湾や南米などで発売されている。欧米では未発売だ。これは欧米人の髪質に合わないためではないかと乾医師は推測する。
「薬剤の効き方には個人差がありますが、日本人は内服薬で治療効果が出やすく、内服薬に外用薬を併用するパターンが多いです」
フィナステリドは性機能障害の副作用も指摘されているが、デュタステリドは販売開始からまだ日が浅いため、副作用などの長期的な検討もこれからだ。
「デュタステリドはフィナステリドに比べて前頭部の毛髪に効き目が出やすい印象があります」(乾医師)
外用薬はローションタイプの外用薬(ミノキシジル、商品名:リアップ)だ。ガイドラインでも推奨度Aとされている。
■光治療と内服薬の併用で効果アップ
このほか、新ガイドラインでの推奨度はB(おこなうよう勧める)となった「自毛植毛」は、薄毛の人でも比較的しっかりと毛の生えている後頭部から、毛の薄くなった頭頂部や前頭部に毛包ごと自毛を移植する手術だ。
ただし、見た目が変わるほどの効果を得るためには、それなりの量を毛包単位で移植する必要がある。そのため費用が高額になりやすいのが、デメリット。また日本人よりも内服薬や外用薬の効果が毛質的にみられにくい欧米人の治療で、頻繁におこなわれている。
近年、AGA治療の選択肢に光治療が加わった。赤色ナローバンドLEDや低出力レーザーを使った治療で、前者は乾医師ら国内の医師の共同開発による日本発の最新治療だ。
赤色ナローバンドLEDは波長の長い特定の赤色光を頭皮に照射することで毛乳頭細胞を刺激し、毛を増殖させる物質の分泌を促す。その結果、毛の成長が早まると考えられている。
赤色LEDは安全で副作用がないのが特徴だ。照射してもじんわり肌が温かくなる程度で、日焼けや火傷の心配がない。新ガイドラインにも推奨度Bで新たに加わった。
「赤色LEDを内服薬や外用薬と併用すれば、より効果が高まると考えられます」(同)
不整脈などの副作用が出る恐れがあるため、これまで薬剤が使えなかった高齢者などにも治療の幅が広がった。通院しなくても、自宅で使用できる小型の赤色LED機器なども販売されている。
また、新ガイドラインから新たにウィッグ(かつら)の着用が推奨度C1(おこなってもよい)として加わった。紫外線や物理的な障害から頭皮を守るだけでなく、ウィッグ装着による見た目の満足度が心理的QOL(生活の質)を改善する効用が科学的に認められた形だ。
「心理的QOLの調査でもウィッグの装着で気持ちが前向きになり、自尊感などが高まることがわかっています。ウィッグで薄毛が進行することもありませんので活用されるといいでしょう」(同)
自分に合う治療法は何か、皮膚科医に相談してみてはいかがだろうか。
https://dot.asahi.com/wa/2018091800005.html?page=3
男性脱毛症、気をつけなくてはいけませんね。
これからは頭皮も入念に洗って対策を打たなければいけません。