コンサル仕様のコミュニケーションを学ぶことは大切

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 こんにちは、人事戦略コンサルタントの松本利明です。PwC、マーサー、アクセンチュアなどの外資系大手のコンサルティング会社などで24年以上、人事と働き方の改革を行ってくる中で「おやっ!?」と思ってしまうことが実に多く発生してきました。

 実は、世間で言われる「セオリー」の9割が間違っているのです。思ったような効果が出ないのは、計算ミスより計算式そのものが間違っているのです。うすうす、あなたも気づいているのではないでしょうか?

 そこで前回(「仕事ができない」3タイプ、対応策はこれだ!http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/54076)に引き続き、「働き方改革」のセオリーにありがちな落とし穴と、それに代わる速くラクに成功するコツについて解説していきます。

「すぐやる」と「速く確実に終える」は違う

 実は、個人作業でだけ完結する仕事はものすごく少数。相手から依頼や指示を受ける、相手に依頼や指示をする、といった誰かとのやり取りを伴う仕事が全体の9割を占めています。

 この9割の仕事において、相手の指示が曖昧、言っていることが途中で変わる、結論がひっくり返る、伝えたことを理解しない、違うことをやる、やっているそばから仕事が増える――なんていう混乱は日常茶飯事だと思います。こうした混乱が「働き方改革」の大きな阻害要因にもなっています。

 もっとも、複数の仕事が同時に動いている仕事の現場では、指示内容が急に変わったり、作業の量が増えたりするのも致し方ない面もあります。そんなときに大切なのが互いのスムーズなコミュニケーションなのですが、「限られた時間の中ではなかなか適切に意思を伝えられない」と悩んでいる人も多いはずです。

では円滑なコミュニケーションのコツはなんでしょうか? よく言われているのは「すぐやること」。それから「報連相(報告・連絡・相談)を密に行うこと」です。もちろんこれらは間違いありませんが、もしもあなたがそれだけで「よし」としているなら、残念ながらそれは二流のビジネスマンの発想です。ビジネスの状況はスピーディーに移ろいでいきますから、「すぐやる」「報連相」だけでは、後れを取ってしまうのです。

 一流のビジネスマンは「すぐやる」ことと「速く確実に終える」ことは違うことを知っています。そして、頭の中で伝えたいこと、やらねばいけないことが複雑に絡み合ったまま、相手と連絡を取ったり動き出したりすることが、余計に事態を混乱させることも理解しています。

 彼らが重視するのは、「まず頭の中を整理し、優先度を決めること」。同時に「それを相手に正しく伝え、事態を眺める目線を相手と合わせること」です。

 これができれば、ラクに速く確実に物事を進めることができるのですが、実はこれを簡単にこなしてしまう夢のようなツールがあるのです。ご存知でしょうか?

ソラ・アメ・カサが全てを解決する

 その夢のようなツールこそ、「ソラ・アメ・カサ」です。これはマッキンゼーの日本オフィスが考案した思考のフレームワークで、コンサルタントファームではすでに共通ツールになっているのですが、実は小学生でも使いこなせるくらい簡単なものなのです。

 「ソラ・アメ・カサ」の仕組みは簡単です。

・ソラ「空を見ると曇ってきた」=事実

・アメ「雨が降りそうだ」=解釈

・カサ「傘を持っていこう」=判断

 というシンプルな構造です。

 事実を整理し(ソラ)、そこからどうなりそうかと解釈し(アメ)、ゆえにどんな判断を下し打ち手や行動を提案するか(カサ)。3つの要素を一言で表現したのが「ソラ・アメ・カサ」です。

 この3つをセットにして考えると、複雑に絡み合った事象のつながりがシンプルに整理され、論理的にムリも飛躍もない判断ができます。さらに、自身の思考を整理するときだけでなく、相手に物事を簡潔に、正しく伝達する際にも「ソラ・アメ・カサ」は絶大な威力を発揮してくれます。

 実際に「ソラ・アメ・カサ」の威力を検証してみましょう。

ソラ「空を見ると曇ってきた」=事実

 このように、ソラ・アメ・カサの要素が1つだけでは、相手に何も伝わりません。

 では、要素が2つになったらどうなるか。

ソラ「空を見ると曇ってきた」=事実

アメ「雨が降りそうだ」=解釈

 これだと、「そうですね。だから何でしょうか?」と相手は考えるでしょう。外出しないほうがいいのか、テルテル坊主を作るのがいいのか、あれこれ勝手な解釈をしてしまう可能性があります。

ソラ「空を見ると曇ってきた」=事実

カサ「傘を持っていこう」=判断

 事実と判断だけだと、「大げさだな」「心配性だな」「確かに」とあなたと相手の意見にブレが生じる可能性大です。

 解釈と判断だけではどうでしょう。

アメ「雨が降りそうだ」=解釈

カサ「傘を持っていこう」=判断

 このように相手と解釈の根拠を共有しないままに判断を伝えると、「そうかな?」「私はそう思わない」と意見が割れる可能性が出てきます。

 いかがでしょう。ソラ・アメ・カサの2つの要素だけではなかなか相手に思いが伝わらないのがお判りいただけたでしょうか。

 確認のためソラ・アメ・カサと3つの要素を並べてみます。

ソラ「空を見ると曇ってきた」=事実

アメ「雨が降りそうだ」=解釈

カサ「傘を持っていこう」=判断

 これなら自分自身でも、素直に違和感なく頭が整理され、正しく判断ができますし、ソラ・アメ・カサを踏まえて相手に話すと、こちらの考えが正しく伝わり、的確に判断してもらえるのです。

 そう、物事を決めるプロセスには「伝えることを話す方が決める」「聞いた内容で相手が判断する」の2段階があります。ソラ・アメ・カサはこの2つのステップをいっぺんに実行してくれる優れたツールなのです。

ソフトバンク孫正義氏も、ユニクロ柳井正氏も、「経営者が重要な意思決定を行うには、『事実』『解釈』『打ち手』の3つがセットになっていないと行えない」と言っています。どうでしょうか? ソラ・アメ・カサは、こうした一流経営者の要求に十分応えられるツールということが理解いただけるでしょうか。

 ソラ・アメ・カサの活用で肝なるのは「アメ=解釈」です。「事実をどう解釈するか」で想定されるゴール像は変わってきます。ゴール像が変われば判断・打ち手も変わることは明白でしょう。

 事実の解釈により、アメは無数に存在するわけですが、日本語の特性として、アメは往々にして省略されてしまいがちです。これが意思疎通の妨げになっている場合が非常に多いのです。

 付き合い始めのカップルが、デートの途中で夜空を見上げているシーンを想像してください。

「夜空がきれいだね」

「うん、そうね」

 一見、お互いの意思は通じているように見えます。しかし、「きれい」の意味を突き詰めてみると、「星がたくさん出ていてきれい」「満月が大きくくっきり見えてきれい」「水面に映る満月と波紋がきれい」「町の灯りと星の光のコントラストがきれい」「流星群がきれい」「夜空に関係なく実は浴衣姿の君がきれい」など、同じ「夜空という事実」でも、解釈により、きれいと感じるポイントが違っている可能性があります。「アメ=解釈」の部分をきちんと伝えていないと、その違いに気づかないままやり過ごしてしまうことになります。

 このように、一見「伝わった、理解し合えた」と感じていた関係が、実は大きな誤解の上に成り立っていたということが後々発覚すると、危険です。プライベートなら関係修復の可能性も残されているでしょうが、上司や取引先とのやり取りの中で生じた「解釈のズレ」に気づかず放置している事態は、ビジネスでの致命傷になります。

 適切な解釈を生み出すポイントは次にあげる2つです。

・事実の「どこに」焦点を当てるか

・焦点を当てた事実を「どう」解釈するか

「どこに」と「どう」の部分を自分の中で明確にし、ソラ、アメを導き、最適の「カサ=判断」に繋げることが大切です。

 簡単な例で説明しましょう。

  ソラ(事実)「加湿器が欲しいというお客様が来た。相見積もりして安い方を買うと言っている」

 それに対するアメはこんなものが考えられます。

 アメ1(解釈)「壊れず長期間、安定的に使える商品を望んでいそうだ」

 アメ2(解釈)「経費予算がなく、価格が安い方を選択せざるを得ないのかもしれない」

 アメ3(解釈)「加湿器だけでなく、実は保湿機能付きを欲しいのかもしれない」

 アメによって、それぞれ打ち手も変わります。アメ1であれば「品質がよく壊れないのでランニングコストを考えて10年使うならお得」という提案が考えられるでしょう。アメ2であれば、「安く導入してもらい、部品や手入れなどのメンテナンスコストで調整して回収する」となるでしょう。アメ3になると、加湿器が欲しい理由を確認する必要がありますが、仮に喉が弱くいたわりたいのなら、加湿・保湿機能に加えハウスダストやカビ除去ができる空気清浄機能の付いた製品を提案する方向が見えてきます。

 このようにソラ・アメ・カサはシンプルに物事を整理し、判断し、相手に正しく伝え、認識合わせができる、優れもののツールなのです。

ソラ・アメ・カサは誰でもすぐ身に着けられる

 ソラ・アメ・カサの思考法を身につけるのは簡単です。物事を考え、誰かに伝える時に「ソラを伝えたので次はアメ、最後はカサ」と順番を守って話すクセをつければすぐ習慣になります。「ソラ」「アメ」「カサ」の3つが揃っていればいいのです。

 人はたくさんのポイントを言われると記憶できず判断ができません。「ポイントは7つあります」と言われても実際は覚えられないでしょう。「ポイントは3つまで」と心得ましょう。その意味でも、ソラ・アメ・カサはポイントを3つに絞ってくれる便利ツールなのです。

 いかがでしょう。「ソラ・アメ・カサは使えそう」「ラクに身に着けられそう」と感じてもらえたのではないでしょうか。そこで次回からは、具体的な事例を使ってソラ・アメ・カサの実践法について解説していこうと思います。

http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/54270

コミュニケーションは難しいですよね。

やはりいっぱい人と話したり関わったりすることが一番大切なのかもしれません。