なぜ40歳以上の会社員は輝きを失うのか 対談

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サラリーマンはいつ独立するべきか。編集者として『宇宙兄弟』など数々のヒット作を担当し、33歳で独立した佐渡島庸平さんは「多くの会社員は40歳くらいで成長が止まり、あとは社内政治の調整になっていく」という。バンダイで「∞プチプチ」などのヒット商品をつくり、35歳で独立した高橋晋平さんは「このままだと自分の成長速度は遅くなるかもしれない、と思ったから辞めた」という。ただし2人は「自分の才能を過信しないほうがいい」とクギを刺す。2人の対談記事をお届けしよう――。

 

「自分も金を出したい」ものしか売れない
【高橋】佐渡島さんは『宇宙兄弟』などたくさんのヒット作を編集者として担当していますが、本の企画はどうやって立てるんですか? 著者の「これを書きたい!」と、編集者の「これがウケそうだ」では、どちらを重視しますか?

佐渡島】両方あります。高橋さんの近著『一生仕事で困らない企画のメモ技(テク)』みたいな単発のビジネス書では後者ですね。でもマンガや小説だと、連載が何十年も続く可能性がある。作者が「これを書きたい!」と思わないと続けられないんですよ。だから編集者としては「普遍性があるかどうか」を気にします。

【高橋】普遍性ですか?

佐渡島】以前、後輩の編集者がある作家の原稿を読んで「今回はおもしろいです!」って書籍化の企画をあげてきたんで、僕はこう言ったんですよ。「お前、ひと月に数冊しか本読んでないみたいだけど、この本はその中の1冊に入るの? 金を出して買う?」。すると「買わないです。仕事として無理やり読まされるなら、おもしろいですけど……」って。それを作家に伝えるのがお前の仕事だろう、と。

【高橋】本当にそうですよね。自分が買わないのに、誰かが買うわけがない。

佐渡島】サラリーマンは企画したものが売れようが売れまいが、給料が毎月自動的に入ってきますよね。だから、お金のことを考えずに企画する癖がある。それは企画に対してすごく無責任な態度です。無責任な人って、たとえば「新しい!」だけで企画を一点突破しようとするでしょう。でも本来は、お客さんが納得して財布のひもを緩めるかどうかがすべてであって、それ以外は遊びごとなんですよ。人の心が動くというところまで責任を持てるかどうかが、企画者として大切なことだと思います。

辞めるのは成功体験を積んでから
【高橋】僕は3年半前に会社を辞めましたが、もし会社にいたら、今ごろどうしていただろうって考えることがあるんですよ。今だから言えるのかもしれないですけど、上司に怒られてもいいから、なんらかの方法でとりあえず企画を世に出しちゃって、それでファンがついたらそれでいいじゃんって考え方をしたかもしれないです。

佐渡島】今はネット上で自分のアイデアを試せますから、話題になるかどうか試せばいいんですよ。

【高橋】会社に所属した状態で、ですね。

佐渡島】そうです。自分の企画が社内で理解されないと不満な人は、そうやって世に出して試してみればいいんです。それで世間もしーんとしていたら、完全に自分が悪い。たぶん99%くらいの人が、自分が悪いのに周囲、つまり会社が悪いって言っているだけですからね。

 
社内外問わずいろんな人に会うべきだった
【高橋】あと、僕はバンダイにいるとき、びっくりするくらい会社内しか見えていませんでした。「∞(むげん)プチプチ」という玩具を企画したときは、プチプチの会社(名古屋市に本社のある川上産業)に行きましたし、「猫背」というフィギュアを企画したときは整体師に会いに行きましたけど、それでも狭かった。あと会うのは版権元や権利元の人くらい。

でも本当は、会いたければ誰でも会えるはずで、たとえば佐渡島さんならわかってくれるかもしれない……と思ってコルクに持ち込んだら何かが起きるかもしれない。何かを突破するために、社内外問わずいろんな人に会うべきだったなあというのは、今だったら思えます。

 

自分のアイデアがダメなのに、それに気付かない
佐渡島】転職や起業は、今いる会社で小さい成功体験を積んでからでもいいと思います。小さい成功体験は社内でも社外でもネット上でも、いくらでも経験できるはずなので。僕自身、講談社時代に『ドラゴン桜』と『宇宙兄弟』という成功体験がありました。ただ、その成功体験があっても社内を変えられなかった。講談社の方針と僕の方針が明らかに違っていたんですね。そういうズレが明確になってから、辞めることを考えればいいと思うんですけど、実はズレていないのに、つまり単に自分のアイデアがダメなのに、周りがダメだと思い込んでいるケースは多いんですよ。

【高橋】それはかつての僕です(笑)。バンダイに入って最初の数年間くらいは全然企画が通らなくて、「玩具業界は衰退の一途だ」なんて言っているイタい奴でした。その後は会社で得られることを吸収し尽くすというか、やり尽くすまではいたんですけど、今度は会社を辞めたあと成長するのが一番難しかったですね。会社にいるときは、「このままだと自分の成長速度は遅くなるかもしれない」と思ったから辞めたんですけど。

佐渡島】会社員の多くは40歳くらいで成長が止まり、あとは社内政治の調整になっていきますからね。それまで輝いていた人が全員は輝けなくなっていく、という側面はあると思いますよ。

【高橋】とにかく、会社にいるうちにあれこれと作戦をたててみるのはおもしろいと思いますね。僕は「最弱のビジネスパーソン」を名乗っていて、気も弱ければ体も弱い。そして怖い人が一番苦手。だけど、あまりに企画が通らなくて半年くらい1個も商品を作ってない時期に、同期はものすごく売り上げを立てていることがありました。そういう崖っぷちのときに、「何でもいいからやってやろう」と覚悟すれば何かは変わりますし、僕はそれでうまくいきました。

いくら会社に理解がないとか言っても、探せば味方はいるはずなんですよ。それに、そもそも社内にすら味方がいないなら、その企画は世に出してもダメだってことだと思います。

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マンガ家は「飽きない」のが才能
【高橋】自分がクリエイターなのかプロデューサーなのか、ということで悩むことがあります。長期連載しているマンガ家さんは、ずっと同じ作品を描いていて飽きないんですか。

佐渡島】高橋さんはうちの会社で「FFS診断」(※)を受けましたよね。

【高橋】受けましたけど、結果を覚えてないです(笑)。

佐渡島】じゃあ結果をスタッフに問い合わせましょう。

【高橋】あ、僕は保全性と拡散性が11と11で一緒ですね。

 

プロデューサーは拡散型だからすぐ飽きる
佐渡島】FFSは大きく5つのタイプに分かれますよね。凝縮性、受容性、弁別性、拡散性、保全性。クリエイターと呼ばれる人たちは概して保全型で、同じ世界観の中で何かをずっと積み上げていくのが好きなんです。コルクのクリエイターさんたちも、ほぼ保全型でした。いわゆる職人さんもそうですよね。同じことをずっと何十年もやっている。カンナの削りの精度を一生極め続けるとか。彼らは「飽きない」のが才能なんです。一方、プロデューサーは拡散型なんで、すぐ飽きるんですよ。だからルーティンワークが苦手。

佐渡島】クリエイターみたいに繰り返しやって極めたい気持ちと、新しいことをやりたい気持ちが、ほぼ一緒ってことです。

【高橋】なるほど。だから僕、ボードゲームを作っているときは延々没頭しちゃうんだけど、あるときふと、「これ、ずっとやってていいのか?」って気持ちが働くことがあります。僕の弱点でもあるんですけど。

佐渡島】高橋さんと一緒に働く人がプロデューサー的な人だと、高橋さんは保全の方に集中できるし、高橋さんがクリエイターを抱えると。高橋さんはプロデューサーとして生きるだろうと思います。

【高橋】ふたつの性質が共存しているんですね。佐渡島さんは完全に拡散型ですか。

佐渡島】はい、僕はすぐ飽きます。でも不思議なんですけど、人間関係には飽きないんですよ。エージェント業としてコルクを起業したのも、同じ人と何十年も付き合いたいたから。その人の新しい側面を引き出したい、見つけたいっていう気持ちがすごく強いんです。

 

引用元

president.jp

 

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